black×cherry ☆番外編追加しました
(な・・・)


「あ、あの!私、まだ、結婚なんて」

「なに言ってるの。あなたの年には、私はもうおじいさまと婚約をしていましたよ」

何十年も前のことを、おばあさまは常識のように私に告げた。

有無を言わさぬ眼差しに、思わず口をつぐんでしまう。

「あなたはね、早く家庭に入った方がいいと思うの。まさかまだ、ホストの男性に未練があったりしないわよね」

「・・・はい。それはもちろん・・・」


(正直、まだ完全に忘れたわけじゃないけれど・・・)


悠翔さんは、初めて好きになった人。

裏切られたという思いとか、忘れたいっていう感情は、当然の如く持っている。

けれど気持ちというのは複雑で、彼を好きだった淡い記憶は、今でも胸に残ってる。

未練とは違うものだけど、「彼を忘れた」と言い切ることはできないでいた。


(なんて、おばあさまには言えないけれど・・・)


逮捕された後、悠翔さんとは直接話をしていない。

だから、刑事さんから聞いた悪事を、「嘘じゃないか」って、どこかで思っているのかもしれない。

「未練がないならいいんだけれど。もう、あの人のことは忘れなさい。

ああ・・・でもね、早川先生には全て話をしてあるの。事件のことは、『咲良さんが純粋で騙されやすいからでしょう』って、そんなふうに言ってくださって。それでもちろん気にしませんって。こんな方、他に誰もいないと思うわ」

「・・・っ」


(あのときのことを、早川先生が知っている・・・)


恥ずかしかった。

「そんなことを話さないで」と思わず口に出かかったけど、すぐに言葉を飲み込んだ。

自分が元々悪いことだし、おばあさまには逆らえない。

これは、幼い頃から刻まれた、羽鳥家で絶対のことだった。
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