black×cherry ☆番外編追加しました
もちろん、覚えていても不思議ではない。

けれど、なんとなく忘れていてほしかった。


(ここで会った時、黒崎さんは一度も表情を変えなかったし・・・気づいてないと思っていたのに)


動揺する私に、黒崎さんはさらなるひと言。

「羽鳥・・・咲良だっけ?」

「!」

フルネームまで呼ばれてしまい、動けないのに飛び上がりそうな気持ちになった。

完全に、黒崎さんは私のことを覚えてる。

容疑者として取り調べした、泣きじゃくった私のことを。

「は、はい。そうです・・・」

「・・・そんな怯えられると困るんだけど。取り調べじゃあるまいし」

「い、いえ、あの・・・」

「『姪に何をしてくれた』って、岩田本部長にさんざん怒られたから。インパクト強くて覚えてただけ」

「!」


(・・・すごい、いろんな意味で悪印象・・・)


ますます恐怖で固まると、冷ややかな横目で睨まれた。

またなにか怒られるのではと私がビクビクしていると、黒崎さんは呆れたように大きな息をひとつ吐く。

「足は、帰ったら親父が診てくれんだろ。車だよな?」

「はい。おばさまの運転で・・・」

「わかった。じゃあ、運ぶからじっとしてろ」

「!?え、えっ・・・!?」

戸惑う間に、黒崎さんは私のことを抱き上げた。

5センチほどの至近距離、恐れていた人の横顔が。


(これは夢か幻か・・・)


現実じゃないことを願うけど、息をのんで固まる私を、黒崎さんは横目で睨む。

この迫力は夢じゃない。

心臓をバクバクさせながら、必死になって声を出す。

「あの・・・!私、歩けます・・・!!」

「はあ?歩けないだろ。起き上がれもしなかったくせに」
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