婚約指環は手錠の代わり!?
「あのー、海瀬課長?
自分で食べられますので……。
降ろしてください」

「ダメだ。
ほら、あーん」

眼鏡の奥の目は眩しそうに細められ、両方の口端が僅かにあがって笑みが載っている。
うっとりとしたその顔に、渋々再び口を開ける。

「あ、あーん」

戸惑う私を無視して、海瀬課長はせっせと食べ物を私の口に運び。
ソースやなんかが口端についたりすると、ぺろりと舐め取ったりして。

……朝食が終わる頃には、私はぐったりと疲れていた。

 
海瀬課長がコーヒーを淹れているあいだにやっと着替えた。

少し間を開けてソファーに並んで座ると、かちっ、煙草に火がつけられて、ふぅーっと煙を細く長く、海瀬課長は吐き出した。

さっきまでのよくわからない甘い空気とは違い、無言でコーヒーを飲む。
まるでハイテンションすぎてスイッチが切れたみたいな。

「じゃ、じゃあ、私は、これで」

「どうして帰る?」
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