私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~

連れて来られたのは、もっとつまんないことに、近くの区役所だった。

「何で役所なんかに?」
せめて、湾岸のふ頭の倉庫とかじゃないと格好がつかない。

私を連れて来た男をギロッと睨みつける。

「ここで待つように言われてますから」

私たちは、車を降りて区役所の中に入って行った。

役所の窓口が動き始め、ぼんやり待ってた人たちが案内に従ってカウンターの窓口の席に着く。

私たちは、戸籍課の待合室のよく見える場所で待っていた。

窓口には、手続きに来ているカップルがいて、ベタっとくっつくながら、手を取り合って手続きを終えるのを待っている。


こんなところで何してるんだろうと思い始めた時、視界の端に、ちらっと彼の姿が見えた。

こっちに向かってくる。間違いない。岩槻高陽だ。

出来るなら避けて通りたい。

彼は、朝早いというのに。

上品なダークグレーのスーツに身を包み、シャキッとしたシャツで襟元を際立させ、こっちに向かって歩いてくる。

朝から清々しい。

見ようと思ってなくても、視線を引き付けてしまうのは生まれ持ったものだろう。

何しろ、有名な資産家の直系である岩槻家に長男として生まれたのだ。

この世に生まれ落ちた瞬間から、周りの関心を一身に集めて来たのだ。

どこに行ってもアイドル並みに注目され、お世辞を言われる。

ピンと背筋を伸ばして歩いてくる。
彼の歩く姿も、自信が満ちている。

居合わせた人も、古ぼけた区役所の建物なんかに何の用事だろうと、チラッと彼のことを振り返って見ていく。

それはそうだ。彼は特別だ。

見た目も素晴らしいけど、若い頃からビジネスでも重要な立場に立ってきた。
すでにその風格も十分だと言える。
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