私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
「待たせてしまったかな?申しわけない」
落ち着いた声が上から降って来た。

いつの間にか、彼が目の前に立っていた。

さすがに、プリンス。
動作が洗練されていて、謝る姿が自然だった。

頭を下げる彼の姿勢には、傲慢さはどこにもない。


私の隣に立っているのは、おそらく数分後に夫となるかも知れない人。

冴えない女と結婚しなければならないのに、口もとを緩めて笑ってる。

本当に?彼は、私と結婚するつもりなの?

役所まで来ちゃって。

結婚するつもりでいる。
そういうことだよね。本気なの?

いや。いくら彼が結婚するって言ったって、結婚には私の同意が必要だ。

どんなお金持ちだって、自由にできるものではない。

結婚するには、婚姻届けに自分でサインしなければならない。

こうなったら、手を縛ったってサインなんかするものか。

断固拒否して見せるぞ。ウオー!


岩槻高陽を夫にする?

現物を、見れば見るほど無理。


だって、こんな人。

私が、将来の夫になるタイプとかけ離れてるもの。

私が結婚するとしたら……

もっと平凡な夫。

たいして出世しないだろうけど、気のいい夫。

ときどきケンカもしたりするけど、仕方なく仲直りする。


岩槻高陽は、私のイメージとまったく違う。

だって、岩槻高陽は、何十年経ってもハゲにもデブにもならなそう。


岩槻高陽だって、そうだろう。

岩槻高陽は、自分の妻が、まるで存在感のない女でいいとは思わないだろう?

地味女を妻にして、この人が奥さんですか?なんて、戸惑い気味に聞かれることをよくは思わないだろう。


思ってるわけない。

私がお金持ちなら、お金も持ってない、普通の地味男なんかと結婚しないもの。

結婚するなら、モデルみたいなゴージャスないい男がいいに決まってる。


選ぶとしたら……
お祖父さんが残したお金だ。

他人に、お金を渡したくないんだ。

はあ……
そんなのわかってるけど。


仕方なく結婚したって言われるのは嫌だなあ。

嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。


「考え事は、終わったか?」

彼は、ここについてからも一言も発せず、じっと周囲の様子を眺めていた。


彼の横に立つのは嫌だ。

彼の引き立て役にしか見えないし、妻なんかになったら、地味な奥さんって一生言われるもの。

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