私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
「あの……実はまだ、結婚するのかしないのか、はっきり決めていないんです」
宿題を忘れた生徒のように、消え入りそうなほど小さな声で言う。
「ん?」
どうかしたのっていう感じで、小首を傾げて耳を近づけてくれた。
あの……じゃなくて。さあ、早く。
もっとはっきりわかるように言わなくちゃ。結婚なんかしませんっていうのよ。
もう少し、考える時間が欲しいとか、急に言われても決心がつかないとか。理由なんて何でもいいから。
彼の方はすでに、決断したのだろうか?
岩槻高陽さんも、考えて、眠れない夜を過ごしたんじゃありませんか?
何でこんな女と結婚しなければなんないのだろうとか。
死ぬほど、考えませんでしたか?
っていうか、簡単に結婚なんか決められるか。
本当に突然だったのだ。伯母から連絡をもらい、従兄に会うように言われその際に、彼からプロポーズされたのだ。従兄と言っても、初対面に等しい。
ほとんど会話らしき言葉のやり取りもしていないというのに。そんな相手に結婚して欲しいだなんてよく言うものだ。
私の人生、ここまで順調とはいいがたい。仕事の面はともかく、恋愛の方は上手くいっていない方が多かった。それなのに、恋愛をすっ飛ばして、いきなり結婚してくれなんて人がいるなんて。
あり得ない。
おまけに、相手は、とびっきりゴージャスで、結婚相手にするなら完璧だとされるほど財力も容姿も申し分ない男性だ。
まとまらない。
ダメだ。まとまらない。
ああ、もう。どうしたらいいの。