あの夏の空に掌をかざして
そこで、女の子は死んでいた。頭からどくどくと真っ赤な鮮血を垂れ流し、周りの野次馬に看取られながら。
慣れとは恐ろしいものだ、だって、最初はあんなに怖くて直視できなかった光景が、今は微動だにもせずに、見られるようになったのだから。
男の子は泣き叫んでいた。そこで初めて、あたしはその子の声が聞こえた。
『×××ちゃん!!×××ちゃん!!しなないで!!』
でも、その女の子の名前だと思われる箇所にだけ、ノイズがかかったように、聞こえなかった。
『×××ちゃん!!×××ちゃん!!』
男の子の悲痛な泣き叫ぶ声に、野次馬は何だ何だと、更に増えていく。
それが見ていられなくて、目を逸らしたいけど、夢の中のあたしにはそんな願いも叶わなかった。
そんなとき、突然男の子の体が発光した。
それが何だったのかも分からずに、体が遠慮がちに揺らされ、あたしは目が覚めて行くのを感じた。
「…かりちゃん、あかりちゃん、起きて、もう着いたよ」
「…………ぅん?…ひなた?」
右側から、日向の声がする。遠慮がちに声をかけて、体を揺さぶられる。そこで、だんだん意識がはっきりしてきた。
「わぁごめんなさい~!起きた起きた!」
慌てて体を起こし、出る準備をするあたしに、日向は優しく言う。
「おはよう、あかりちゃん、すごい熟睡してたよ?夜眠れなかったの?」
そう訊いてくる日向に、あたしは誤魔化すように笑って、早く降りようと下車を促す。