あの夏の空に掌をかざして
 次の水槽には、チンアナゴやニシキアナゴのコーナーだった。


「見てみて、あかりちゃん、この魚……」


 ボーッと、足元を見つめていた。日向の声も聞こえなかったくらいに。


 こんなデートに、意味なんかあるのかな。あたしが日向の、ほんとに特別な意味で、"特別"になることなんか、できるのかな。


 そんな不安が頭をよぎる。目の前から、知っている声がするのは分かるのに、ソレを言葉として理解することができない。


 唐突に、右手首を引かれる感覚がして、意識を現実に引き戻された。


「へ?日向?ちょ、次の水槽通りすぎてるよ!!、ねぇ!日向ってば!」


 日向は、あたしの言葉に何も何も言わず、次のコーナーを通り過ぎても、ずんずんずんずん進んでいった。


 …どうしよう、怒らせちゃったのかな、あたし……ほんとどうしようもない。


 その時、さっきの声は日向のものだったのだと気付いた。日向が怒るのは当たり前だ。誘った張本人に無視されて、ぼーっとされたんだから。


 ネガティブな思考が、更に根暗になっていく。


 どれだけ声をかけても、日向は返事もしないので、もう話すのは諦めて、黙ってついていく。


 日向……今、どんな顔してるの?ここからじゃ何も分かんないよ……。


 意味不明な日向の行動が、さらに不安を煽る。

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