あの夏の空に掌をかざして


 日向の背中から上ばかりに意識を集中していたせいで、足元への注意が散漫になってしまっていた。


「っひゃ!」


 何かにつまずいて、転んだのだ。とっさに、目の前にいた日向にしがみつく。


 途端に広がる、鼻腔をくすぐる日向の匂い。日向の足が止まる。


 ……やってしまった。


 ただでさえ怒らせちゃったのに、こんなどんくさい事をしてしまった。日向に面倒くさいと思われたかもしれない。日向はそんな人じゃないってわかってるけど、今までも、どれだけ迷惑かけてきたか、考えたくもないほどだ。


 もういいや、今しかない。今聞かないと、全部ダメになっちゃいそう。


「…日向、……………怒ってる…?あたしのこと…嫌いになった?」


 日向が振り返る。恐る恐る見上げると、日向はイタズラを思い付いた子供のように笑っていた。


「もうちょっとだから、あと少し黙ってて」


 素っ気ない言葉だったけど、その声色は優しくて、怒ってはいないんだと分かって、安心した。


 答えになってないけど、この際もうどーでもいいや!


 そして、日向の歩幅がさっきよりも小さくなり、歩く速度もゆっくりになっていることに気付いた。


 ……あたしに合わせてくれてる?さっき転んだこと、気にしてくれてるのかな。やっぱり、日向は優しい……。


 どきん。どきん。心臓が高鳴る。 
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