先生、僕を誘拐してください。





Tシャツの件以来、窓辺に本音くんが本当に一度も現れなくなった。

そもそもマスクをして私と会話をしなくなったときにその理由を伝えるために現れだしたのだから、もう現れなくても私たちは意思も通じ合う。

本音を知りすぎるよりもこれぐらいでちょうどいいのかもしれない。


そう思っていた。


気づけば貴重な八月は、あと三日しか残っていなかった。
三年生は二学期始まってすぐにある、全国模試に向けて勉強だけ。

奏も忙しいから、結局ふれあい動物フェアには行く時間さえ持てなかった。

お盆はお父さんのために、初盆として三人で提灯を炊いたりお参りしたぐらいだし。

あっという間に夏が終わろうとしていた。

「た、武田先輩」

いつも通り夏期講習後、茜色の空の下、バスケ部の様子をちらりと見ようとして未来ちゃんにあった。

「未来ちゃん、どうしたの? 合唱のリハーサルは明日だよね?」
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