先生、僕を誘拐してください。



「本音も、目の前にいる美空も、いつもどこにいても可愛いよ」

奏は、本音くんより格好いい。でもそれは強勢で。本当は本音くんみたいに繊細な性格なんだろうなって理解した。


でも大丈夫。もしまたギリギリまで頑張っていたら、気づいて誘拐してしまうから。

「大学受かるまで我慢してたんだけど、もういいか。好きすぎてたまらねえもん。――今、俺が考えてることわかる?」
「たぶんね」

笑って私は眼を閉じる。

ジャズが流れる体育館は、しっとりとした大人の雰囲気で皆、ステージの上の朝倉くんを見ている。
いつか、もう少し私が大人になって、朝倉くんの先生の話をちゃんと聞いてあげられる日がきたら聞いてあげたいと思う。人を好きになる気持ち、大切だと思う気持ちは、やっと今知ったのだから。
私にひどい言葉を投げかけらえても、暴言を吐かなかった朝倉くん。
彼の恋物語もいつか、ちゃんと聞いてあげたい。


幸せになった途端にそう思うのはちょっと卑怯かもしれない。
でも私もやっと奏に正直になれた。

私たちは今から、だ。
私たちは一番後ろで、手を繋ぎながら、キスをしたのだった。

Fin








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