先生、僕を誘拐してください。
「先生?」
「お父さんが死んでさ、お母さんは生きてるけど足のリハビリに一年以上通ってるのに完治はしないの。おかげで、未来に夢見てわくわくしたら、現実の貧しさに虚しくなるって気付いたの」
驚いた顔で、本音くんが私を見る。
ので、私はジュースを拭きとった後顔を上げて、にこっと笑う。
「本音くんにだけ見せる、私の本音だよ」
誰にも内緒だよ、っと言ったが、窓辺の彼は段々と消えて行く。
失望したのは、彼の方だった。
歪んだ、泣き出しそうな顔。
別に君の美しい声が私を今まで癒していたわけではない。
ただ現実だと思っていた日常が、いつ、壊れるかなんてわからない。
そう思ったら、私を無視し出した奏が、――私の日常を壊しそうで嫌だっただけ。
ソレは多分きっと、本音くんには知りたくもなかったことだと思う。
「……私もあまり知りたく無かったな」
自分以外の、心の奥にある深い心理、本音。