先生、僕を誘拐してください。
「壊したり部屋に入ってきたら、大声出すから。襲われたって大声出すよ。大人はどっちを信じると思う? 可哀想な過去を持つ女の子と、乱暴に自転車を庭に放り投げてる男の子」
「俺が美空の嫌がることするわけねえし」
「あら、いつから私の事呼び捨てだったっけ?」
トン、と小さくドアが叩かれ奏は言い返してこない。
そのあとズルズルと扉の向こうで座る奏の音がした。
『蒼人は、美空よりもしっかりしてる』
代わりに届いたメールには、そんな短い一文のみ。
「話そらさないで」
『逸らしてるのは、美空の方だよ。蒼人は毎日尋ねてくる先生に頭さげてた』
「どんな風に?」
メールで来る言葉を、私は扉の向こうに直接返信する。
「『今は、傷に触れないでほしいです。本能っての? 怖いんだけど、誰かを失いそうであっちに行きたくない。だから代わりに楽しい事を探してる最中なんです。陸上を続けるのは今は、楽しくないんです』って」
何故かメールじゃなく、扉越しにそう言われ、沈黙してしまう。
今度は私がメールをしたためる番だった。