先生、僕を誘拐してください。
「ちがう! やめて。メールやめて!」
ドン、と大きく後ろ手で扉を叩く。
すると何十倍にもなって扉が叩かれた。
「だったら、本音が壊れる前に俺に甘えろよ!」
カナリアが飛んでいく。本当に、奏の中の、純粋で鈴の様に無邪気で美しい声は飛んで行ってしまった。死んだんじゃなく、飛んで行った。
カナリアの代わりに授かった奏の声は、――私の胸を掴んでしまうような深くて重い。
「何よ……。喋らなかったのはそっちじゃない。マスクして、逃げて、喋らないあんたになんで相談しないといけないの」
「開けろ」
「嫌。今さらムシが良すぎる。嫌。私に声を聞かれたく無くて逃げていたくせに、なんで今さら甘えろとか言うの」
「開けるから」
カチャンと鍵が回った。背中で押しても、奏の体重には勝てない。
「なんで」
「蒼人の部屋の鍵と同じ構造だから」
尻もちを付いたまま見上げ、息を飲む。
見上げると、まるでスカイツリーのように高いではないか。
……そんな笑えない冗談を考えるほど、気まずい。