好きだから……
 要のまわりにいる3バカトリオの女子二人がうらやましくて、憎い。

 自然に女の子らしい振る舞いができて、要の笑顔を間近で見られてズルい。
 おかしいな。
 私は美島君が好きだと思ってたのに。違ったと、最近になって気づくなんて。

 美島君は、憧れの存在で越えたい人間。だから惹かれただけ。
 クールで、勉強で苦労してる姿が見られなくてスマートに1位をとっちゃう。
 1位だからって自慢も、大柄な態度もしない。
「だから、なに?」みたいな対応に憧れただけ。

 私もああなりたいって。
 成績順位で、毎度のようにイライラして。
 要を困らして、要のまわりにいる女子たちに八つ当たりして。

 何やってんだろ、私……ってまたひどく後悔して。

「気分転換しよ」と私は独り言をつぶやくと、リュックの中からスマホを取り出した。
 ジャックにイヤホンを入れて、アプリを開く。

 秘密の時間。
 誰にも言えない私の楽しみ。

 それはユーチューブで見るゲーム実況だ。
『カナカナ』という名で、ゲーム実況の動画を配信している。

 ゲーム機を私は持ってない。ゲームはしてみたいと幼いころから思ってた。
 要が持ってて、楽しそうにやっている姿が羨ましいって思ってた。

 でも私の家は、ゲームは勉強の妨げにしかならないからって買ってくれることはなかった。

 だからせめて……動画だけでも味わいたい、と。
 いろんな動画を見てきたけれど、『カナカナ』さんの動画が一番好きだ。

 声が、口調が、しぐさが……どうしてか要と重なる。
 顔はマスクをしてて、目しか見えないけど雰囲気が似てて、見ているだけで心があたたまるんだ。

「あ、最新の動画がアップされてる」と私は呟くと、音量をアップして動画を見始めた。

『会いたい』とまた、脳裏でラインの文字を横切る。
 勉強したいから『無理』と断った。

 私も『会いたい』。
 要に会いたいよ。

 私は、動画を途中で切ると、イヤホンを抜いて、立ち上がった。

 スマホと家の鍵、スイカのカードを握りしめると、部屋から飛び出した。

「みどり? どうしたの?」
 バタバタと階段を下りてきた私に、お母さんが居間から顔を出してきた。

「ちょ……っと、忘れ物。えっと、塾に。忘れ物してきちゃったの。要に渡す予定だったの。だから……取りにいかないと」
「要くん? まだあの子と付き合いがあったの? 言ったでしょ? あの子は」
「要は幼馴染! 生活費を稼ぐのにバイトが忙しいって勉強が大変みたいだから」

 ふうっとお母さんが、呆れたようにため息を零した。
 お母さんが何を言いたいのかわかってる。

 要の勉強を見る前に、自分の成績をどうにかしろって言いたいって。
 1位をとるように、もっともっと努力しろって小言をつぶやきたいんだ。

「とにかく出かけるから」と私は、お母さんの次の言葉が出る前に、家を飛び出した……。

―みどりside-終わり
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