好きだから……
「マジ、腹減った……」と俺は作業部屋からヨロヨロと出てくるとダイニングの椅子に座って、テーブルに顔を伏せた。

「要(よう)ちゃん、もうちょっと待っててね。作業してたからまだかと思って、保存食のほうを先に作り始めちゃって……」と千里がキッチンで忙しなく動いている。

「……ん」と俺は返事だけして、顔をあげた。

 千里に毎日来てもらうわけに行かねえから、一度来てもらったら2,3日分の食事を作って冷凍してもらってる。

 妹は中3で、受験生だ。
 料理を作れだの、洗濯掃除しろだのとは言えない。
 洗濯掃除は、時間の隙間を見て俺がやってるが、料理だけは……。
 家政婦を雇う金もねえし。

……と、3バカトリオ内で話していたら、千里が料理を作ってくれると言ってくれた。
 ありがたい申し出だったから、それ以来ずっと料理の面では千里に甘えっぱなしだ。

 ぐぅ~と、胃袋が唸り声をあげる。
 わかってるっつーの。待ってろ、俺の腹!

 ガチャガチャと玄関で鍵が開く音が聞こえてきた。
 美香が塾から帰ってきたのだろう。

 いつもより早いな。
 飯がねえ、ってラインしといたから、もしかしたら千里の手伝いをするために帰ってきたのかも。

 たまに美香が千里に料理を教わってる姿を見たことあるしな。

「要ちゃん、コレ味見して? よければ冷凍用に小分けするから」
「ん」と俺は返事をして、キッチンへと向かう。

 千里もキッチンから出てきて、スプーンを俺の口へと差し出してくる。

「兄ちゃん、今日はみどりさんに夕飯頼んだの~?」

 ぱくっと千里が持っているスプーンを口に入れたときに、美香の間延びした声がダイニングに響いた。

 はあ? みどり?

 美香の声がしたほうに、スプーンを口にしたまま、視線を動かした。
「ん!?」と口にスプーンが刺さったまま、俺が声をあげた。
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