溺愛CEOといきなり新婚生活!?

 仕事も滞りなく捗り、十八時には社を出られた。六月目前の空は、ほんの少し梅雨の気配がする。


「上遠野さま、お疲れさまです」
「九条さん!?」

 横断歩道で赤信号を待つ私の前に、またしても九条さんが現れて驚いた。


「本日のご予定はいかがされていますか?」
「これから帰ろうとしていたところです」
「そうですか。それでは、どうぞお乗りになってください」

 九条さんはスマートに私をエスコートして、黒のセダンに私を乗せると運転席へ回って車を出した。


「あの、永井さんは」
「社におります。本日は少々業務が立て込んでいるので、先に上遠野さまをお迎えに上がるようにと」
「……お気遣いはありがたいのですが、帰宅するくらいは自分で」
「永井の指示ですので。それにお二人がお住まいになっているマンションではなく、これから社に向かいます」
「御社に!?」

 ええ、と言って冷静にハンドルをさばく九条さんは、バックミラー越しに私を見る。


「どうしてなのかは、永井にお聞きください。私はあくまでも指示を受けたまでですので」
「……はい」

 アプリのメッセージ機能で永井さんと連絡を取ろうと思ったけれど、業務が立て込んでいると言われたのを思い出してやめた。


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