溺愛CEOといきなり新婚生活!?

「そこじゃなくて、こっち」

 彼が示すのは、デスクの向こう。ぐるりと迂回して椅子に座る彼の隣に立つと、突然抱き上げられて、彼の脚の上に座らされてしまった。


「永井さん!?」
「なに?」
「下ろしてください」

 とは言え、しっかりと私の腰を抱いている腕が離れれば、床に尻もちをつくかもしれない。大して高くはないけれど、とても堅そうな大理石の床に落ちれば、確実に痛みを味わうだろう。


「バッグはここに置くね」

 戸惑う私を横目に永井さんは私のバッグをデスクに置いて、間近で微笑んでいる。


「……お仕事、お疲れさまです」
「ありがとう。花澄も、お疲れ」

 無言に耐えられなくて労いの言葉をかけると、またしても呼び捨てられて胸の奥が少し揺れた気がした。
 昨日は雅哉さんと過ごしたのに、今日は永井さんとこんなこと……許されるはずがない。いくらサンプリングマリッジをしていたって、雅哉さんが知ったらいい気はしないだろう。


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