カノジョの彼の、冷めたキス
「もうすぐ会社の前着くで」
明るいノリのスタンプとともに送られてきたメッセージ。
スマホを隠したりしなかったから、たぶんそれは渡瀬くんにも見えていた。
もうすぐ着くんだ。
渡瀬くんは断れっていうけど、もうすぐそこまできてる人との約束をドタキャンわけにも行かないでしょ。
あたしが行くって決めて、そう返事したんだもん。
少し考えてから、あたしは渡瀬くんの目の前で高下さんにメッセージを打った。
「わかりました。会社の入り口の前にいます」
そのメッセージを送り終えてスマホをカバンに入れようとしたとき、突然何かがぶつかる衝撃音がした。
直後に首の下から腰のあたりに鈍い痛みが落ちるように走って、訳がわからず何度も瞬きをする。
はっと気付くとそれまで見えていたはずの景色が90度ひっくり返っていて、鋭い瞳であたしを睨み下ろす渡瀬くんの向こうにオフィスの天井が見えていた。