カノジョの彼の、冷めたキス



あたしの前に置かれたそれと渡瀬くんが手に持っているもうひとつが、何気におしゃれなデザインのペアカップだったから、彼の前の彼女の影を妙に感じてしまう。


これ、他の誰かも使ったのかな。

複雑な気持ちでカップを手に取り口につけていたら、渡瀬くんがどかっと遠慮なくあたしの横に座った。

つまらない嫉妬に思考を奪われていたときに、思いがけなく渡瀬くんと肩同士が触れ合って動揺した。


「熱っ……」

淹れたての熱々のコーヒーが勢いよく唇と舌を直撃して、マグカップを持つ手が反射的に揺れる。

そのせいで、カップの中のコーヒーが跳ねてそれがブラウスの胸元に数ヶ所の小さなシミを作った。


「あぁ、やっちゃった……」

マグカップを目の前のテーブルに置いて、ブラウスにできたコーヒーのシミを見つめながらつぶやく。


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