カノジョの彼の、冷めたキス
「ふ、服ありがとう。着替えてくるね。洗面所、借りていいかな?」
借り物の服に深いシワがつくほどぎゅっと握りしめて、ソファーから少し腰を浮かす。
だけどそのとき、渡瀬くんが立ち上がろうとするあたしの手首をつかまえた。
ただそれだけのことで、大げさなくらいに心臓が跳ねる。
振り向くとやけに色っぽい目をした渡瀬くんがあたしを見つめていて、腰を浮かしかけた姿勢のままで動けなくなった。
不自然な態勢で動きを止めたあたしに、渡瀬くんがそっと軽いキスをする。
そのせいで身体から力が抜けて、あたしの腰はまたソファーにすとんと落ちた。
「大丈夫?手伝おうか?着替え」
すっかり気が抜けてしまったあたしを見て、渡瀬くんが悪戯っぽく笑う。
冗談めいた彼の言葉は、つい数時間前のオフィスでのできごとを想起させた。
渡瀬くんの綺麗な指がもう一度ブラウスのボタンに触れていくのを想像して、あたしの頬がわかりやすいくらいに素直に真っ赤になる。