カノジョの彼の、冷めたキス
「穂花は行くの?」
頬杖をついて雑誌に視線を落としていた渡瀬くんが視線をあげる。
「うん、あたしは毎年参加してるよ。だって、会社の経費で旅行連れてってもらえるんだよ?」
満面の笑みで答えると、渡瀬くんが呆れたように苦笑いした。
「でも副社長やら部長やら、普段顔会わせない重役たちも参加するだろ。夜の宴会とか気ぃ遣って疲れないか?」
何気なく言ったんだと思うけど、渡瀬くんが副社長って言葉を口にしたから少し胸が騒ついた。
渡瀬くんが去年も一昨年も社員旅行に参加しなかったのは、そのせいかなと思ってしまったから。
考えて黙り込んでいると、渡瀬くんがまた他のページをペラペラと捲り出す。
「それに社員旅行で貴重な土日が潰れるのも嫌だったんだよな、俺。自由参加なら、土日はゆっくりしてぇなって」
ひとりごとみたいにそう言ってから、渡瀬くんがあたしを見た。