カノジョの彼の、冷めたキス
「一番前の場所がとれたら、この川の上に花火が上がるところが綺麗に見えたんだね」
隣に立つ渡瀬くんを見上げて話しかけたら、ドンと大きな音が響いて花火が上がった。
「ん?何?」
人混みの騒音と花火の音で声が聞こえなかったのか、渡瀬くんが姿勢を低くしてあたしに顔を近づけてくる。
夜空に上がった花火の光で、渡瀬くんの顔がぱっと明るく照らされる。
あたしに向けられた渡瀬くんの瞳が綺麗で、何を話していたか一瞬忘れかけてしまった。
「あ、えっと……」
「なんだっけ」と口の中でつぶやきながら、照れ隠しに視線を外す。
そのとき、あたし達の後ろの人だかりに渡瀬くんが背中を押された。
少しよろけた彼が、片腕で肩を抱くようにしてあたしにつかまる。
「悪い、大丈夫?」
人混みの中で、渡瀬くんとの距離がますます近くなった。