カノジョの彼の、冷めたキス


「うん、平気」

内心ドキドキしながらも、平静を装ってそう答える。

渡瀬くんはそんなあたしの肩を引き寄せると、彼の横から前へと移動させた。

あたしが動いて空いた少しのスペースは、すぐに後ろから詰めてきた人で埋まってしまって、もうそこには戻れなくなる。

困って後ろを振り向こうとすると、渡瀬くんがニヤリと笑って、後ろから腕を回してきた。

ぎゅっと引き寄せられて、あたしの背中が渡瀬くんの胸にぴたりとくっつく。


「わ、渡瀬くん……?」

「ん?」

「あたしが立ってた場所、なくなっちゃったけど」

「うん」

渡瀬くんにだけ聞こえるように訴えかけたけど、曖昧に交わされる。


< 161 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop