カノジョの彼の、冷めたキス


「15分間の花火だから大したことないのかと思ってたけど、思ったより見応えあったな」

花火のあと旅館に向かって手を繋いでブラブラと歩きながら、渡瀬くんが空を見上げるようにしてそう言った。


「うん、そうだね」

ほんとのところ花火を見ている間の記憶は曖昧だったけど、あたしは渡瀬くんの意見に頷いた。


「それにしても、すごい人だったよな」

「うん。会社の人で他に見に行ってた人もいたのかな」

何気なくそう口にして、しばらくしてからハッとした。


「渡瀬くん。あたし、周りをよく見てなかったけど、一緒にいるところを会社の誰かに見られてなかったかな?」

渡瀬くんと一緒にいるあいだ、社員旅行できているということをすっかり忘れていた。

基本的に宴会後の自由時間はどこに行ってもいいことになっているけど……

だからといって渡瀬くんとふたりで旅館を抜け出して、こんなふうに手を繋いでフラフラしてるとこを誰かに見られたらまずい。


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