カノジョの彼の、冷めたキス
それにもし万が一、花火を見ているときに人混みで渡瀬くんに抱きしめられてたところを会社の誰かに見られてたりなんかしたら……
思い出すと頬が焼け尽きそうに火照ってきて、慌てて渡瀬くんと繋いでいた手を解いた。
そうして渡瀬くんから少し離れる。
渡瀬くんはさっきまで繋いでいた手をしばらくじっと見て、それから不自然な距離をとるあたしに視線を向けた。
「うちの会社、社内恋愛禁止ってわけでもないし。俺は見られてたって構わないけど。穂花は嫌なんだ?」
ふざけてるふうでも、怒ってるふうでもなく、渡瀬くんが真顔で言った。
「わ、渡瀬くんはいいの?」
渡瀬くんはうちの会社であたしなんかよりもずっと有能な社員だ。
あたしと一緒にいるところを見られて困るのは渡瀬くんの方だと思っていたから、彼の言葉に戸惑う。
「いいも何も。バレて困るような付き合い方してたら、そもそも花火になんて誘わねぇよ」
渡瀬くんが眉根を寄せて、呆れたように肩を竦める。