カノジョの彼の、冷めたキス
それから、無言であたしに向かって手を差し出した。
その大きな手のひらをまじまじと見つめていると、ため息とともに渡瀬くんがあたしの手をつかむ。
「見てないで、手ぇ出せよ」
「いいの?」
再び繋がった手をそっと握り返しながら、確かめるように訊ねる。
「俺じゃなくて。穂花は嫌なの?」
渡瀬くんの声のトーンが下がったような気がして、慌てて首を振って否定した。
嫌なわけない。
あたしと付き合ってることが会社の人たちに知れてしまってもいいと渡瀬くんが思ってくれているなら、むしろ嬉しい。
だって、彼がちゃんとあたしのことを「彼女」として認めてくれているってことだから。
「嫌じゃないよ」
言葉にして口にすると、渡瀬くんがあたしを見下ろしてふっと笑った。