カノジョの彼の、冷めたキス




渡瀬くんとふたりで旅館に戻ってきたのは、夜の11時半頃だった。

エレベーターに乗り込んで、あたしの部屋がある5階と渡瀬の部屋がある7階のボタンを順番に押す。


「同じ場所に泊まってるのに、別の部屋とかつまんねぇよな」

エレベーターの扉が閉まると、渡瀬くんが壁にもたれかかりながらつぶやいた。


「穂花の部屋、同室の後輩がカラオケ行ってるんだよな?部屋に誰もいないなら、そいつが帰ってくるまで穂花の部屋に行こうかな」

冗談なのか本気なのかわからない口調でそう言いながら、渡瀬くんが隣に立つあたしの頭に手を伸ばして指先に髪を絡めるようにして弄る。


「ダメだよ。もし連絡なく突然戻ってきたら焦るもん」

あたしは弄られて首筋にあたる毛先のくすぐったさに、笑いながら首をすくめた。


「それに……」

同室なのは、同期たちとカラオケに行ってる後輩だけじゃない。


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