カノジョの彼の、冷めたキス


同室の皆藤さんのことを思い出して話しかけたとき、5階に到着することを知らせるエレベーターのベルが鳴った。

あたし達を乗せた箱が、止まる直前に小さく揺れる。

そのタイミングで、渡瀬くんがあたしの髪をゆるくつかんで引き寄せてキスをした。

エレベーターの扉が完全に開ききるまでの間、数回唇を重ねてお互いに同時に離す。


「おやすみ」

渡瀬くんの手のひらがあたしの頬を滑るように撫でる。


「おやすみ」

名残惜しげにそれが離れていくのを感じながらそう答えたとき、不意にエレベーターの扉の向こうから視線を感じた。

ドキリとして振り向くと、そこには皆藤さんが立っていて、あたし達のことを無表情でじっと見ていた。


今の、見られた……

全く動じることもなく、何を思っているのかわからない皆藤さん。

そんな彼女の反応に、渡瀬くんとの幸せな時間に浸っていたあたしの血の気がさーっと引いた。

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