カノジョの彼の、冷めたキス

その場で凍りついていると、皆藤さんがエレベーターに乗り込んでくる。

7階のボタンに触れかけ、それが点灯していることに気付くと、皆藤さんが扉の「開」ボタンを長押ししながらあたしに視線を向けた。


「降りないの?斉木さん」

皆藤さんの凛とした声が辺りに響く。

あたしを見つめる彼女の瞳が、なぜかとても冷たかった。


「早くしないとブザーが鳴るわよ」

「あ、はい……」

冷たくそう指摘されて、あたしは慌ててエレベーターから飛び降りた。


「お疲れさま」

振り向いたあたしに、皆藤さんが口角だけをあげて綺麗に笑う。


「お疲れさま、です……」

あたしがそう答えるのを待ってから、皆藤さんが押していたボタンから指を離す。

エレベーターの扉が半分ほど閉まったとき、皆藤さんが無言で立っていた渡瀬くんに歩み寄るのが見えた。



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