カノジョの彼の、冷めたキス
その力が思ったよりも強くて、あたしは目の前の男に手首をつかまれたままバランスを崩した。
膝をつくように崩れ落ちたあたしを、前にいた男が庇うように抱きとめる。
その結果、一緒にバランスを崩した男の上に、あたしが馬乗りになってしまった。
「あ、あの……」
慌てて謝ろうとしたあたしを見上げて、男がなんだか嬉しそうににやにやと笑う。
「何してんの、お前ら」
背後から呆れたような冷たい声が聞こえてきてはっと振り返る。
そこには書類を抱えた渡瀬くんが立っていて、男の上に跨るあたしを冷めた目で見下ろしていた。
「あの、違う。これは誤解で……」
真っ赤になって、あたふたしながら立ち上がる。
「あ、あの。すみません……」
背中に突き刺さる渡瀬くんの視線を感じながら、足元に倒れている男を助け起こす。