カノジョの彼の、冷めたキス
「俺はどっちでもいいよ?たまたま駅で出会って一緒のタイミングになることだってあるだろうし」
「そっか……」
ちょっと考えてみたけど、偶然を装った演技が自分にできる自信がなかった。
あたし、絶対顔に出る。
「でも、ちょっとずらしていい?一緒に行くのが嫌なわけではなくて、なんとなく恥ずかしいから」
そう言うと、数秒間を空けてから渡瀬くんがあたしの頭を撫でた。
「わかった。じゃぁ、俺が先に行く。今週はちょっと忙しくて帰りのタイミングが合わないと思うけど、また連絡する」
「うん」
渡瀬くん、今週は忙しいのか。
同じ会社の同じ部署だからこれから向かう場所だって同じなのだけど……
なんだか寂しい気持ちで、先に歩いていく渡瀬くんの背中を見送った。