カノジョの彼の、冷めたキス
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時間外勤務を終えたあたしは、タイムカードを押してオフィス出ると、ビルの共同スペースとなっている休憩所に足を運んだ。
エレベーターホールのそばに作られたそのスペースには、簡易のソファーと自動販売機が幾つか設置されている。
あたしは自動販売機にお金を入れると、ちょっと迷ってからアイスレモンティーのボタンに手を伸ばした。
だけどあたしがボタンに触れるよりも早く、後ろから回ってきた手が無糖のアイスコーヒーのボタンを押した。
「え?」
自動販売機ならこれ以外にもある。
それなのに、人のお金で勝手にコーヒー買うなんて非常識なやつは誰だ。
若干いらっとして振り向いたら、あたしの横から身を乗り出してきたスーツの男が、自動販売機の取り出し口からアイスコーヒーを取り出そうとしていた。
「ちょっと!それ、あたしのなんですけど」
軽く睨みを利かせながら文句を言ったら、男が顔を上げた。