カノジョの彼の、冷めたキス
「あぁ、これ。いる?」
アイスコーヒーの缶を持ち上げて、男が面倒臭げに訊ねてくる。
そんな対応されたらあたしの不満はさらに増幅する、はずなんだけど……
このときばかりは、男の顔を見上げて黙り込んでしまった。
そこにいたのが、渡瀬くんだったから。
「これ、青野とイチャついてたのを見た口止め料としてもらっていい?」
「は?」
青野って、誰だ。
一瞬考えて、それが昼間の肩書き社長の名前だと気がつくと、あたしは思いきり顔をしかめた。
「他の営業マンの顧客に社内で迫ってたなんてこと、部長や他の社員たちにバレたらマズイだろ」
渡瀬くんが意地悪く口端を引き上げながら、アイスコーヒーの蓋を開ける。
「あたしはあの人に迫ってなんかっ!ただのアクシデントです」
昼間の応接室でのできごとを蒸し返されて、恥ずかしさで顔が火照った。
反論したけれど、渡瀬くんは意地悪そうな目であたしを見下ろしながらコーヒーを飲んでいる。