カノジョの彼の、冷めたキス
「だいたい、あなたがドアを強く押すから前に倒れたんです。開けるときは人がそばにいないかちゃんと確認してください。それにあなただって、この前非常階段で……」
渡瀬くんがあたしの話などまるで信じていないような、そんな目で見てくるから、カッとなってつい口が滑った。
本人に言うつもりなんてなかったし、このまま忘れるつもりだったのに……
慌てて両手で口を塞いだけれど、遅かったらしい。
渡瀬くんは飲みかけのアイスコーヒーの缶を休憩室のテーブルに置くと、冷たい目で睨むようにしながらあたしに近付いてきた。
渡瀬くんの殺気立つような気迫に、あたしはじりじりと後ずさる。
そのまま壁に背中がぶつかって、逃げ場を失ったあたしに、渡瀬くんが冷たい目をしたまま口元だけで笑いかけてきた。
「斉木さんて、彼氏いる?」
冷たい笑みを浮かべる渡瀬くんに、唐突にそんな質問をされて戸惑う。
いた、けど。
つい半年前に別れた。