カノジョの彼の、冷めたキス



渡瀬くんがドアを開けようとしたことで、センサーが反応したのか、エレベーターのドアが開いた。

その隙に渡瀬くんが中に乗り込んでくる。

唖然とそれを見ていたあたしは、乗り込んできた渡瀬くんに思いきり強く抱きしめられた。


何が起こっているのか状況を飲み込めていないままのあたしの耳元で、渡瀬くんがゆっくりと息を吐く。


「待ってるって言ったのに。ひとりでどこ行くつもり?」

「だって……」

あの状況で「おまたせ」なんて言って出て行けるはずがない。


「皆藤、さんは……?」

「皆藤には、今携わってる仕事のこと以外で個人的に関わることはないって伝えた」

「でも……」


皆藤さんは副社長と婚約してるのに、渡瀬くんを諦めてないみたいだった……

不安いっぱいな目で見上げたら、渡瀬くんが怖い顔であたしを見下ろしてきた。


「お前、俺のこと全然信用してないんだな」

「そんなこと……」

「だったら、わかってもらえるまで何回も言う」

渡瀬くんが両手をあたしの頬にあててぎゅっと押しつぶすように押さえた。


「俺の第一優先は穂花。いや、違うか……」

「え?」


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