カノジョの彼の、冷めたキス





そろそろ昼休みでも取ろうかと思っていたとき、内線がかかってきた。


「はい。斉木です」

メモを用意しながら受話器を取ると、これまであたしに内線なんてかけてきたこともない人物の声が聞こえてきた。


「お疲れ様です。皆藤です」

ちょうど、休憩室で渡瀬くんに迫る彼女の姿を見たのがつい昨日のこと。

その光景が嫌でも思い出されて、緊張で背筋がピンとなった。

これまで、同期とはいえ副社長の秘書である皆藤さんとあたしが業務上で関わることは一切なかった。

それなのに、わざわざ内線で連絡を取ってくるなんて……

あたしに一体何の用があるというのだろう。

仕事ではなく、私用でかけてきたんじゃないだろうか。

つい疑心暗鬼になってしまう。


「お疲れ様です。斉木です。内線、かけ間違えてませんか?」

警戒心を露わにしながら、もう一度はっきり名乗ると、電話口で皆藤さんがクスリと笑うのがわかった。


「いえ。かけ間違えてません。原田さんの担当されてる取引先のことで確認したいことがあるんですが、原田さんは外出されているようなので、代わりに教えてください」


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