カノジョの彼の、冷めたキス


微かに聞こえてきた笑い声が、人をバカにしているようにも聞こえてムッとしたけれど。

皆藤さんの用件は彼女のいうとおり、原田先輩が担当する取引先についてだった。

手元に何か資料があるらしく、受話器越しに紙をめくると音が聞こえてくる。


「ありがとうございました。もしかすると、ほかの取引先に関してもあとで質問させてもらうかもしれません」

3つか4つほど質問をされたあと、皆藤さんが同期にしては他人行儀な冷たい声でそう言った。


「わかりました。お疲れ様です」

昨日の今日で、なるべく皆藤さんと関わりを持ちたくないあたしも、彼女に倣って他人行儀にそう答える。


「では、失礼します」

「あ、ちょっと……」

内線を切ろうとしたとき、それまで他人行儀な口調だった皆藤さんが、慌ててあたしを呼び止めた。


「はい」

まだ何かあるんだろうか。

早く会話を終わらせたい。

そんな思いが、あからさまに声に出てしまう。

あたしの態度は明らかに友好的ではない。

そんなあたしの態度に、皆藤さんがしばらく沈黙をした。

続く沈黙に苛立ち始めたとき、皆藤さんがか細い声でつぶやいた。


「昨日はごめんなさい……」

「え?」

まさか、謝罪の言葉が聞こえてくるとは思わず、思考回路が停止する。


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