カノジョの彼の、冷めたキス
その後ろを微妙な距離をとってついて行っていたあたしだったけど……
あたしを導くその後ろ姿を見ていたら、どうしようもなく近づきたくなってきて、小走りで渡瀬くんとの距離を詰めた。
あたしが走って追いかけてきたのに気付いた渡瀬くんが、足を止めて振り返る。
思い切って隣に並んで、カバンを持っていないその左手をつかんだら、渡瀬くんが肩をビクつかせた。
「どうした、急に?」
会社の近くでは自分から手を繋いだり、そばに近寄りすぎたりしないあたしの不意打ちに、渡瀬くんが戸惑いの表情を見せる。
「うん、なんとなく。触りたくなった」
「触りたくって……変態かよ」
渡瀬くんが小さく声をたてて笑う。
「違うよ。『あたしの』だって、気まぐれに主張したくなったの」
そう言ってぎゅっと手を握ると、渡瀬くんが不安そうにじっと見下ろしてきた。
「それって、昨日のことが原因?」
昨日の休憩スペースでのことや、不安になったこと。渡瀬くんから聞かされた想い。
そういうのを全部ひっくるめて訊ねられているのだとわかって、しばらく考え込むように首を傾げる。