カノジョの彼の、冷めたキス


ぐっと顔を近づけてきた渡瀬くんの、次の行動を予想して目を閉じる。

鼻先がぶつかって、唇が触れ合う間際、渡瀬くんの動きがピタリと止まった。


「毎日朝まで穂花と一緒にいられる方法、ひとつ思い付いてるんだけど言っていい?」

目を開けたら、キスを寸止めしたままの距離であたしをじっと見つめながら、渡瀬くんがささやいた。


「何?」

そう訊ね返すのと同じタイミングで、渡瀬くんが口を開く。


「俺と一緒に住まない?」

渡瀬くんがあまりに自然に、さらりと誘いかけてくるから、その言葉があたしの中に意味を持って落ちてくるまでにしばらく時間がかかった。

驚きの感情のあとに、喜びが内側から湧き上がってきて、それを伝えたいのにうまく言葉が出てこない。

唇を震わせながら渡瀬くんを見つめていたら、彼が困ったように首を傾げた。


「あ、そういうのはまだ早い?ていうか、嫌だった?」



「違う。そんなこと言ってもらえると思ってなくて。びっくりしただけ」

渡瀬くんの瞳が翳るのがわかって、あたしは慌てて大きく首を横に振る。


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