カノジョの彼の、冷めたキス
『無視すんな』
『コーヒー』
『早くしろよ』
『コーヒー、まだ?』
私用極まりない内容の社内メールの数々に、マウスをつかむ手が小さく震える。
左端のボックスにチェックを入れて、纏めて全部削除してやったら、その瞬間にまた社内メールが届いた。
『ついでになんかつまむもん持ってきて』
そのメール内容を目で読み上げたあたしは、思いきりデスクを叩きつけながら立ち上がっていた。
「いい加減にして!コーヒーくらい、自分で淹れなさい、って!」
メールの差出人である男の涼しげな背中に向かって怒鳴りつけると、彼、渡瀬 孝哉がゆっくりと振り返った。
「あ、やっと手ぇ空いた?じゃぁ、コーヒーよろしく」
渡瀬くんがあたしに向かって当然のようにそう言って、またパソコンに向き直る。