カノジョの彼の、冷めたキス
「よろしく、じゃないから。あたしだって、たった今仕事が終わったところで……」
「じゃあ、なおさらちょうどいいな。いつもどおり、ブラックで」
「………」
肩越しに振り返りながら、渡瀬くんが唇に綺麗な弧を描いて笑う。
同期一イケメンだと言われる彼の笑顔の圧力に、結局……
いや、いつものごとく、あたしの方が負けてしまう。
ため息を吐きながらデスクから離れて一歩踏み出すと、それを確認した渡瀬くんが口元に笑みを湛えたままデスクに置いてあった自分専用のマグカップを差し出してきた。
「どうしてあたしが……」
文句を言いながらも、結局はあたしの足が給湯室に向かってしまうことを、渡瀬くんはちゃんと心得ているのだ。
それが悔しい。
あたしは渡瀬くんのそばまで歩いて行って乱暴にマグカップを受け取ると、そのまま早足で給湯室に向かった。