カノジョの彼の、冷めたキス


ただでさえ顎で使われてるのに、渡瀬くんの好みに合わせた気遣いをみせたりなんかしたら……

それこそ、彼の思うツボだ。

考え直したのちに、渡瀬くんの分は棚に戻し、自分の分のチョコレートだけスーツの上着ポケットにそっとしまう。

マグカップをふたつ運びながら戻ると、渡瀬くんがパソコンのデスクトップを見つめて、何か考え込むような表情で片肘をついていた。


「コーヒーどうぞ」

好き好んで淹れてきたわけじゃない。

そのことを少しでも態度で示したくて、素っ気ない声とともに、わざと音を立てるようにしてマグカップを渡瀬くんのデスクに置いてみる。

だけど渡瀬くんはあたしの地味な抵抗になど全く興味を示さなかった。

ゆっくりとした動きでマグカップの取っ手に指をかけると、それを口に運びながら視線だけをあたしに向ける。


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