カノジョの彼の、冷めたキス
「あー、じゃぁここ座って」
そう言って立ち上がったかと思うと、渡瀬くんは彼が座っていた椅子に半ば強引にあたしを座らせた。
「このデータ、明日の朝のミーティングで使いたいんだよね。コピーして部長にも見せるし、もしミスがあったら困るから俺がここでチェックする」
「え、でも……」
このデータの元になってる資料はあたしのデスクに置いてある。
後ろを振り返ろうとしたら、渡瀬くんがあたしの背後から両腕を前に回してデスクに軽く手を載せた。
そうして、あたしの左肩の上から顔を出してパソコンを覗き込んでくる。
その態勢が、まるで後ろから抱きしめられてるみたいだ。
オフィスで渡瀬くんとふたりきり。
その状況がリアルに感じられて、妙にドキドキとした。
「ほら、さっさと訂正」
だけど、彼を意識してしまっていたのはあたしだけのようで……
マウスを握ったまま動かないあたしの頭上から、渡瀬くんの厳しい声が落ちてくる。