カノジョの彼の、冷めたキス
「あ、はい。ごめんなさい」
これ以上怒られるのは堪らないので、急いでキーボードに手を載せる。
空白の列に正しい数値をひとつひとつ入力し直そうとしたら、今度は呆れ返ったようなため息が上から降ってきた。
「ちょっと待て。それ、一から入力し直すつもり?」
「え、ダメ?」
「ダメじゃねーけど、斉木さんがいつも資料作りに時間かかってる理由がわかった」
「じゃぁ、どうすれば……」
「ちょっと貸して」
あたしの言葉を遮ると、渡瀬くんがマウスをつかむあたしの手に自分の手を重ねた。
ひんやりとしたその手のひらにドクンと胸を高鳴らせながら、斜め後ろに視線を動かす。
渡瀬くんはそんなあたしには見向きもせずに、あたしの手ごとマウスを操作すると、ものの数秒でデータを正しく訂正してしまった。