カノジョの彼の、冷めたキス
「わ、すごい」
感嘆の声をあげるあたしのすぐ後ろで、渡瀬くんがまたため息を吐く。
「すごい、じゃねーよ。これくらいさっとできるように、もうちょっとパソコン勉強すれば?」
「はい。お手間かけてすみません……」
「ほんとだよ。コーヒー一杯淹れるくらいじゃ足りねーからな」
確かに、渡瀬くんが気付いてくれなかったら、明日の朝の会議で同僚たちに迷惑をかけるところだった。
項垂れながら渡瀬くんのデスクを立ち去ろうとして、あたしはふとあることを思い出した。
そういえば……
スーツの上着ポケットを探ると、自分用にと給湯室の棚から持ってきたビターチョコをひと粒取り出す。
渡瀬くんにあげるつもりはなかったけど、手間をかけさせたし、これをコーヒーのつまみとして献上しよう。