カノジョの彼の、冷めたキス


デスクと渡瀬くんの間に閉じ込められている謎の状況に困惑していると、彼が前屈みになって少し顔を近づけてきた。

パーツの整った渡瀬くんの綺麗な顔を直視できず、忙しなく左右に視線を動かす。


「あ、の……」

否応無く心臓がバクバクと鳴り始め、若干の息苦しさを感じ始めたあたしに、渡瀬くんがにやりと笑ってみせた。


「こんな安い礼じゃ足りねーんだけど」

「じゃぁ、どうすれば……」

最後まで言い終えないうちに、半ば強引に唇を塞がれた。

反射的に目を閉じたあたしに、渡瀬くんが心も身体も全部絡め取られてしまいそうなくらい、激しく熱いキスをする。

それは、皆藤さんの婚約を知った後にふたりで交わした『口止め料』以来のキスで……

あのとき以来、口に出さずに封印し続けてきた渡瀬くんに対する胸の疼きを、あたしにはっきりと思い起こさせた。

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