カノジョの彼の、冷めたキス

「え?」

顔をあげたら、渡瀬くんが平然とした表情で立ち上がるところだった。


「部長にも斉木さんと行くってことで許可とってるから。原田先輩には自分でちゃんと話しといて。そういうことで、よろしく」

颯爽と歩き去っていく渡瀬くんの背中を見つめながら、騙されたような気がした。

一瞬耳に届いたような切なげな声は、あたしを他に候補者のいない出張に同行させるための作戦だったんだ。

悔しい。

デスクに視線を落としたら、渡瀬くんが置いていったコピー用紙が視界に入る。

それは、展示会イベントの日時や場所の詳細が書かれたチラシのコピーだった。

見ると、展示会が行われるのは1週間後の土曜日だ。

ホテルと新幹線て言われたけど、詳しいスケジュールは……?

考えながらコピー用紙を持ち上げたら、それには2枚目があった。

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