カノジョの彼の、冷めたキス


さっきは早く寝たいって言ってたはずなのに。


「これから仕事するの?」

「あぁ、ちょっと報告書の仕上げ」

パソコンを操作する渡瀬くんの背中に話しかけると、彼はあたしを振り返らずにそう言った。


「そう……」

静かな部屋に渡瀬くんがキーボードを叩く音だけが響き、部屋の隅に立ったままのあたしは手持ち無沙汰になる。

しばらく仕事をする渡瀬くんの背中をぼーっと見ていたら、彼が不意に手を止めて振り返った。


「あ、放置して悪い。斉木さん、先に風呂使っていいよ」

「お、お風呂?」

何もないことはわかってるのに、同じ部屋で一夜を共にするのが渡瀬くんだからか、彼があたしにかけてくる言葉のひとつひとつを妙に意識してしまう。

思わず声を裏返らせると、渡瀬くんが可笑しそうに笑った。


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