【完】☆真実の“愛”―見つけた、愛―1
けど、思ってただけ。
行動には、移せなくて。
『何しとるんや!母さん!』
姉さんが止めにくるまで、母さんは俺を……父さんの肩を揺さぶり続けた。
自分の愛する人と、
愛せない息子。
それが重なるほどに、壊れてた母さん。
『……京子?今日のお稽古は、終わったの?』
それでも、俺以外が話しかけると、良い母親で。
『……っ、は、はい……』
母さんの変貌ぶりには、誰もが驚くほどだった。
『そう、良い子ね……そうだわ。はるも誉めてくれるわ。はるはどこかしらね?京子は知らない?』
『……っっ、父さんは、出掛けたんや』
『え?私を、置いて?』
『ちゃう……すぐ、帰ってくるって、言いよったよ』
『本当?』
『ほんまや』
愛された、姉さん。
『フフ、京子、京子』
歌うような声が、姉さんを呼ぶ。
俺に申し訳なさそうにする姉さんに首を振って、母親についているようにお願いする。
もう、分かっていることだったから。
そこからは、部屋に駆け込んで。
いつもと同じ。
鏡を見ながら、俺は泣く。
『うっー』
父さんに似て生まれた自分の顔を見て、
似ていなければ、
愛されたんだろうかなんて、
馬鹿なことを考えながら。
声を殺してなく俺は、
本当に惨めだった。
同じ両親から生まれてきたのに、
どうして、自分だけが嫌われるのか。
―母さんを、和子を頼んだぞ―
(……無理だよ、父さん)
貴方じゃなきゃ、駄目なんだ。
母さんを愛すのも、
守るのも、
抱き締めるのも、
何もかも。
顔が似てても、俺は母さんにとって、憎い対象。
≪僕を愛して≫
その声は、今日も闇に溶ける。
大きな屋敷の、
奥の自室で、
自分のすすり泣く声を聞きながら、
今日も一人で眠るのだ。
孤独。
……そのあとに起こったあれは、本当に、俺がどれだけ努力しても無駄だったのだと悟った。
母さんに何事もなく愛された、泣く弟たちを見ながら、俺の心は冷めていた。
(……許さない)
あの日から、
俺は、女が大嫌いになったんだ。